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将来を見据えて、資産形成を加速させたいという40代勤務医。そんなときに目にするのが、「医師こそワンルーム投資がおすすめ」という広告。不動産投資に興味はあり、初めてみたいという気持ちはあるものの、広告のうたい文句にのっていいのかどうか……考えていきます。
激務の勤務医、大きくなる将来不安「収入が激減したら…」
「勤務医」と聞くと、多くの人は「高収入の優雅な専門職」をイメージするかもしれません。高級輸入車、高級マンション、長いバカンスで海外旅行、そして使い切れないほどの資産額……という具合です。しかしそのイメージは荒唐無稽でしょう。ごく一部の金銭的に大成功した開業医にしか当てはまりません。
実際の勤務医の生活は、そのようなイメージとはかけ離れています。まず挙げられるのは過酷な長時間勤務。一般的な労働者の場合、月100時間以上の残業は労働基準法違反に問われますが、医師の場合、面接指導さえあれば月100時間以上の残業が認められています。医師という職業の性質上、残業時間の調整が困難であるためとされていますが、医師だからといって体力が一般労働者と異なるわけではありません。体力気力を削って仕事をしているのが現実です。
さらに急性期病院ではオンコール勤務という制度もあります。わかりやすくいうと自宅待機で、病状が急変した患者に対応するために自宅で連絡を待っている状態です。当然ながらオンコール中は飲酒厳禁であるなど、自宅とはいえ完全なリラックス状態にできません。オンコール中は学会の支度や論文執筆に充てるなど有効に時間活用する医師も多いものの、体力に恵まれない場合は相当に過酷な毎日となります。
その一方で「医者の不養生」ともいえる実態もあります。強いストレスから飲酒や喫煙が止められない医師、暴飲暴食で肥満となっている医師、時間がなく健康診断をスキップする医師、健康診断の指摘事項を無視する医師、脳梗塞で倒れても翌月には勤務に復帰している医師など、仕事を優先するあまりに自分の養生は後回しになっているケースが多いようです。
このようにストレスが強い勤務実態のなかで、多くの医師が将来に対する不安を抱えています。特に体力が急に落ちてしまう40代にもなると、自分が病気で働くことができなくなったらどうなるのかと考えてしまうのです。子どもの教育や家族の生活レベルなど、収入が激減したときに対応できるのだろうかと強い不安を覚えてしまいます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構による「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、緊急対応の多い脳神経外科の勤務医の平均年収は1,480万円です。一般的な労働者よりも高いと感じるかもしれませんが、命を削るような激務に対する報酬としては決して多くはないのではないでしょうか。もし自分が倒れたらこの収入が無くなってしまうため、早い段階からのリスクヘッジを構築しておくことが重要です。
そこで選択肢として考えるのが資産運用です。若いうちから資産運用を行うことで大きな資産に育て、金銭的な安心感を得ようとしています。しかしその多くは投資信託や株式投資などの金融投資がほとんどです。医師は金融業者から勧誘を受ける機会が多いことが理由として挙げられるでしょう。
しかし、投資をするにあたって重要なのはアセットアロケーション(投資対象の分散)です。金融投資だけでは戦争や騒乱、景気動向などによって影響を受けてしまいます。そこに社会変動に比較的強いとされる不動産投資などの現物投資を組みこむことで、リスク分散が可能になります。
不動産投資と聞くと「ワンルームマンション投資」を連想する人が非常に多いと思います。ワンルームマンション投資は詐欺的な業者が乱立した時期があり、投資に失敗し大金を失った人が少なくありません。しかし一概にワンルームマンションが必ず失敗するとは言えず、その多くは勉強不足のまま業者の言いなりになって見切り発車をしたことが原因です。
とはいえ、ワンルームマンション投資は不動産投資において悪手のひとつとさえいわれるのも事実。
ある勤務医の事例を紹介しながら、医師にとってどのような不動産投資が向いているのか考えていきたいと思います。
【事例】
夫Nさん:40歳、勤務医、年収1,600万円
妻Rさん:36歳、専業主婦
娘:8歳
金融資産:8,600万円
自宅:賃貸マンション
40歳のNさんは総合病院に勤務する産婦人科医です。昨年の年収は約1,600万円。申し分のない年収だと考えていますが、ここ数年、漠然とした不安を抱えています。
研修医時代の同期Tさんが最近、脳血管の出血性疾患で倒れたというのです。Nさんよりも1歳年上の41歳。命に別条はないものの、これまでのような激務は避けるべきでしょう。Tさんの実家は地方で成功した開業医であるため、勤務医を辞めて実家に戻るつもりだと聞いています。
同期Tさんの病気にNさんは衝撃を受けました。Nさんは身長170cmで体重は94kgと肥満体形です。学生時代は62kgの痩せ型でした。20年ほどで32㎏も増えてしまったのはストレスによる暴飲暴食です。医師として説得力がないと自分でも思いますが、丸々とした体形は患者にとって威圧感がなく、仕事では役立つこともあります。
健康診断も多忙を理由にスキップしていますが、数値がよくないことは簡単に想像がつきます。もし働けないような事態になったら家族と自分はどうなるのだろうか…自分には承継できるような家業などありません。そう考えると今まで感じたことがなかった不安が湧き上がってくるのです。
そんなときに目にしたのがワンルームマンション投資のネット広告。NさんはつみたてNISAをはじめとして投資信託をいくつか買っていますが、不動産投資も取り入れたほうがいいのではと考え始めています。
もし毎月の家賃収入があるとしたら、非常に魅力があります。株価や金利動向などを気にする必要がなく、自分が所有する物件から毎月定額の収入があれば、非常時のお金の不安が軽減されます。また、少し調べたところ不動産投資には節税効果もあるといいます。
そこでワンルームマンション投資について業者に問い合わせる前に、FPに相談してみることにしました。
勤務医にこそ不動産投資がおすすめだが
FPから聞いたのは、不動産投資を始めるにあたって勤務医という職業は非常に有利であるという点でした。不動産投資を始める人の多くは金融機関からの融資を受けることになるため、勤務医や大手企業に勤務する会社員が融資審査の「属性」として良好なのです。
そこでワンルームマンション投資をどう考えるか質問したところ、FPはリスクについて次のように指摘しました。
・仕入れの段階で高値つかみになりやすい
・ワンルームマンションは単身者用であるため家賃を高くできない
・上記から利回りが低い
・空室になると収入(売上)がゼロになる
・ロット(運用する部屋数)が一室だけであり、大きな資産形成には不向き
・利回りが低いと売却は著しく困難になり、多くは損失を出す
「全然いいところがありませんね……」とNさん。
「ワンルームマンション投資は、立地の良さと物件の安さが成功のカギです。しかしそれでも利回りが低すぎて、不動産投資の最初の一歩としては悪手といえます。余計なストレスを増やすだけであるため、避けたほうがいいでしょう」とFPはいいます。
ワンルーム投資のリスクをカバーできるアパート投資
そこで不動産投資を始めるのであれば、ワンルーム投資よりも一棟アパート投資のほうが利回りは高いという説明を受けました。
「アパートですか……投資規模が大きそうですね」とNさんは不安そうです。
確かに一棟アパート投資はワンルーム投資と比べ、初期投資(仕入れ)が高額になります。建物だけではなく土地も購入することになるからです。しかし、ワンルーム投資のリスクをカバーできるポイントが多くあります。
■アパート投資のメリット
・ロット(運用する部屋数)がワンルームよりも大きく、利回りが高くなる
・ワンルームを複数運用するよりも小さな手間で済む
・資産形成の規模がワンルーム投資よりも大きい
・利益が出る年に合わせて大規模修繕をするなど、収支をコントロールできる
・最終的に土地だけは残る
・空室があっても他の部屋でカバーできる
・立地がよく建物の維持ができていれば家賃は下がらない
ただしデメリットもあります。
■アパート投資のデメリット
・物件内で凄惨な事件が起きれば全室が空室になる
・築古になるとメンテナンス費用が高額になる
・新築物件を買う(建てる)場合、投資額が高額になる
金融投資のようにほったらかし投資とはなりませんが、立地戦略、入居者のペルソナ設定、売却時の出口戦略、さらに買い増すための事業計画などを練っていけば、大きな資産形成が可能になります。勤務医として勤め上げるだけでは不可能な規模の資産額になるでしょう。Nさんが心配するような万が一のときの備えとしても機能してくれます。
ただし不動産投資は誰でも始められるものではなく、少なくとも年収が1,000万円以上あり、大手企業の会社員か勤務医などであることが必須です。その点でも勤務医には金融投資と合わせて不動産投資を行うことがおすすめなのです。
<執筆者>
長岡 理知
長岡FP事務所
代表
2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。 住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。