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入居者トラブルで最も多い騒音問題。入居者からの訴えに対して、大家の責任は? また大家の責任としてできる対処法は? 弁護士が解説します。

騒音被害の実際と基本的な裁判例傾向

アパート経営をしていると、入居者から上階の入居者の足跡が聞こえるとか、隣室が夜中に騒いでいるなどの苦情が来ることがしばしばあります。このような騒音トラブルは常日頃から起きていますし、中には裁判にまで発展したケースもあります。実際の裁判例を踏まえ、どのようなトラブルが生じており、大家がどのような責任を負うのか解説します。

まず、騒音の裁判例の傾向としては、裁判例が多数存在するものの、損害賠償額が高額になるケースは稀だというのが筆者の印象です。あくまでケースバイケースではあるのですが、数百万円の損害賠償額を認めているようなケースは少なく、メンタルクリニックへの通院費+慰謝料100万円未満が認められているようなケースが多い印象です。

裁判まで発展するほどの騒音被害があるという一方で、「音」という五感で感じるものですから、人それぞれ感じ方が異なるものを、定量化して金銭換算するところに難しさがあるのでしょう。そもそも、騒音被害にて裁判に訴えるためには、騒音測定のための業者までいれていないと勝訴できていないケースもあり、その費用も発生しますし、慰謝料額も高額にならず、ハードルが高い訴訟類型の一つだと思います。

裁判例上、大家が騒音被害の責任を負うのか?

では、具体的に大家側に騒音の責任が認められた裁判例をみていきましょう。まず、ライブハウスと飲食店という商業テナントビルの事案ではありますが、東京地裁平成17年12月14日判決が参考になります。ライブハウスの上の階に飲食店が営業していたのですが、うるさくて営業できないと営業損失等の損害賠償を大家側にも求めたという裁判例です。貸主としては、違法な騒音が発生している状態を放置してはダメで、大家側としても、騒音を発しているライブハウス側に是正措置を求める義務があり、それを怠った以上、責任がある、といった内容です。つまり大家としては、賃借人間の騒音トラブルであっても、騒音発生元の賃借人側に注意して、騒音を防止する措置をとる必要がある、という裁判例です。

一方で、東京地裁平成24年3月26日判決では、居住用賃貸物件で、「騒音+迷惑行為」があったと主張し大家も含め訴えた事例で、大家の責任を否定しています。この裁判例では、大家としても、苦情が出た際には、常々、騒音発生元に注意を行っていた事実を認定し、逆に、迷惑行為等の証拠が不十分であり、それ以上強い対応が取れなかったという事情を踏まえて、大家の責任を否定しています。

まとめていきますと、①大家としては、賃借人が違法な騒音にさらされずに暮らせるように、注意し、違法行為を是正していく義務がある。②ただし、必要な注意等を行っていれば、必ず責任を取る必要があるわけではない。このように概ね言えるかと思います。

騒音問題…実際の対応と対策

騒音と迷惑行為も似ているところがありますので、あわせて、実際の対策として参考にしてください。まず、入居者から隣人の騒音ないし迷惑行為の相談があった場合には、管理会社などとも相談しながら、「注意」は必須だと思います。電話、手紙等がまずは考えられるでしょう。まったく対応していないと、先ほどの裁判例のように、大家が訴えられたら賠償させられるようなケースもあり得るからです。

また、注意の方法として、騒音等の出元が特定できていない場合には、「2階付近から騒音が……」などの張り紙にて周知、警告することはあり得る対策でしょう。一方で騒音等の出元が特定できていても、氏名等を踏まえて張り紙を行うことは、今度、騒音元と目される賃借人側のプライバシー侵害の問題がでてきますので注意が必要です。

次に、注意等をしても収まらないという場合どこまで対応するかは難しい問題です。少なくとも、管理日誌等で、どのようなトラブルが生じており、どのような問題行為があったかの証拠を残していくのは必須でしょう。加えて、騒音なら騒音計の設置や、迷惑行為ならば、共有スペースに監視カメラの設置等も検討してもよいかもしれません。

ただ、またここでも気を付けなければならないのが、騒音計の設置といっても、部屋内部の生活音を収音できるようなことになってしまうと、プライバシー侵害、盗聴のようになってしまいますから、注意が必要です。また、監視カメラなども、共有スペースの防犯等のためなら基本的に問題ないですが、特定の方の部屋の内部まで映り込むような設置の仕方だとプライバシー侵害の問題が生じます。そのため、騒音や迷惑行動の対応のためには証拠を残す必要がありますが、居住者のプライバシー侵害にも配慮したうえで対応しなければならないのが難しいところです。

最後に、そのうえで警察を呼ぶほどのトラブルが、数ヵ月から数年単位で発生しているとなると、迷惑行為等により退去訴訟まで打って出る必要があることも念頭に置く必要があるでしょう。大家としては、頭が痛いのですが、迷惑行為による立ち退き訴訟は、かなりハードルが高いので、その事前段階から粘り強く証拠収集が必須です。そのうえ、プライバシー侵害にも配慮しなければならないので、騒音対策や迷惑行為対策には、よっぽど慣れている管理会社や弁護士等と二人三脚で対応していくことが必須になってきているかと思います。

 

著者:山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。