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都心や人気エリアの物件で急増しているトラブル、それが「入居者による無断民泊」や「隠れ風俗店・サロン」の運営です。セキュリティが売りの物件であるにもかかわらず、見知らぬ他人が出入りすることで、他の入居者が退去する事態に……。単なる契約違反にとどまらず、近隣トラブルへの発展やオーナーへの法的責任のリスク、そして契約解除への高いハードルについて解説します。
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「オートロックなのに知らない人がいる」…発覚のきっかけは“違和感”
違法民泊が疑われる物件では、まず他の入居者から「最近、見知らぬ人の出入りが多い」という相談が寄せられます。深夜にスーツケースを引いた人がエレベーター前に列を作っていたり、ポストに複数の鍵が放置されていたり、ゴミ置き場が急に荒れ始めたりすることもあります。
調査を進めると、入居者本人は実際には住んでおらず、Airbnb などの民泊サイトで部屋を転貸し、毎日違う宿泊者を受け入れているケースが少なくありません。なかには、施術ベッドを搬入して「違法サロン」を運営していた事例もあるようです。
これらは民法612条が禁じる無断転貸に該当し、契約書上の居住目的にも反する重大な違反です。しかし実際には「怪しい」と思っても、利用者が日替わりで入れ替わるため証拠がつかみにくく、オーナーが実態を把握する頃には問題が深刻化していることが多いのです。
即刻退去させたい! でも「信頼関係の破壊」の立証は難しい
違法民泊と分かれば、オーナーとしては「すぐに解約・退去を」と考えます。しかし、賃貸借契約の解除は、単に違反があっただけでは足りず、裁判実務上は「信頼関係が破壊された」と言えるかどうかが重要になります。
よくある誤解が、「民泊サイトへの掲載=即違反」という認識です。契約解除のためには、掲載者が本人かどうか、実際に宿泊者を受け入れていたかなど、運営実態を証明する必要があります。サイトが削除されれば証拠は残らないため、鍵受け渡しの方法、入退出の記録、近隣への聞き取りなど、丁寧な証拠集めが求められます。
そのため、実務ではまず「是正勧告 → 回答の記録 → 再発確認」というプロセスを踏み、それでも改善されない場合に初めて契約解除の相当性が認められます。拙速に解除へ踏み切ると、逆に「不当解除」だと争われるリスクすらあります。
さらに、無許可で宿泊サービスを提供する行為は旅館業法違反に該当し、悪質な場合は刑事事件として扱われます。入居者が主体だとしても、警察や保健所の調査が入る際にはオーナーも事情聴取の対象となり、管理体制について説明を求められるケースもあります。問題を放置すれば、民事上の管理責任を問われるおそれもあります。
資産価値への大打撃…優良入居者の“連鎖退去”
違法民泊が厄介なのは、契約者本人よりも同じアパートの他の入居者への影響が甚大であるという点です。不特定多数の出入りが続けば、入居者は「治安が悪化した」と感じ、管理会社へ苦情が殺到します。そして皮肉にも、真っ先に退去を検討するのは「家賃の高い優良入居者」です。
彼らは環境の変化に敏感で、次の更新を待たずに新居探しを始めます。一方、違法民泊を運営している張本人は収益が出ているため退去せず、物件全体の“質”が目に見えて低下します。
退去が続けば空室率が上がり、賃料の値下げを余儀なくされ、結果として物件の収益性は悪化します。不動産価値は利回りで決まるため、これだけで物件価格が大幅に下落する可能性もあります。
さらに、Google マップや賃貸掲示板などに「民泊利用が横行している」「管理が行き届いていない」と書かれてしまえば、悪評は半永久的に残ります。新規入居者の申込みが減り、管理会社からも敬遠されるようになり、負の連鎖が止まらなくなります。
違法民泊を防ぐための4つの実務対策
重大トラブルへ発展させないためには、入口で防ぎ、契約で縛り、管理で寄せつけないという予防法務が欠かせません。
① 審査段階のスクリーニング強化
転貸業者には共通点があります。収入・職歴が曖昧、内見で生活感のある質問をしない、相場より高い家賃でも迷わず即決するなど“不自然な兆候”を見逃さないことが重要です。
② 契約書を専門家仕様に
市販の契約書では不十分なことが多いため、以下の条項を盛り込みます。
- 無断転貸・事業利用の明確な禁止
- 違反時の違約金・損害賠償の範囲
- 是正勧告から解除までのプロセス
- 防犯カメラ・入退室ログ利用に関する同意
③ 物件ターゲット層を理解し、募集戦略を調整
築古・低賃料物件は特に狙われやすいため、募集媒体や入居審査を慎重に行い、入ってほしい層を明確に設定することが重要です。
④ 管理体制の“見える化”
巡回頻度を上げる、注意喚起をこまめに行う、防犯カメラを活用するなど、「管理が行き届いている物件」であることを示し、違法民泊が入り込む余地をなくす対応も重要です。
違法民泊は、一室の問題では終わらず、物件全体の価値・入居環境・オーナーの法的リスクを一気に壊していく深刻なトラブルです。早期発見と的確な法的対応、そして“そもそも入れない”という予防策が何より重要です。
トラブルが疑われる段階でも、早めに専門家へ相談いただくことで、ダメージを最小限に抑えることが可能です。
<執筆者>
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家で発生した不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力している。法律トラブルは表面化しにくく、早期対応こそが最善策につながるという考えから、セミナー講師としての情報発信にも積極的に取り組む。「不動産に強い」との評価から不動産相続案件の依頼が増え、複雑な相続や特殊訴訟も数多く担当してきた。相続開始直後の緊急相談から、事前の生前対策まで幅広く対応し、円満かつ実務的な解決を重視する。税理士・司法書士・不動産鑑定士らと連携し、依頼者ごとに最適な解決策と再発防止策を提案している。