目次

資産形成において、はじめは誰もが初心者であり、そのときにビギナーズラックが起きることもあります。このとき資産形成を加速させようとして、大きな損失を被るケースも。資産形成の基本を改めてみていきましょう。

資産形成でビギナーズラックというパターン

佐藤和也さん(仮名・32歳)は、情報通信企業にお勤めです。30歳になり、両親からは「お付き合いしている人はいないの?」「そろそろ結婚とか考えないと」などと、折に触れ、話をされることが増えてきたように感じていたといいます。

友人は比較的多く、まとまった休みが取れると一緒に旅行に出かけるなど、独身生活を満喫していました。「貯蓄をしなければ」と意識したことはなく、残ったお金を銀行口座に置いているだけです。

普段利用しているネット銀行のウェブサイトでは、投資についても紹介されていました。佐藤さんは交際している女性はおらず、結婚願望も強くありません。しかし「結婚するにしても、独身でいるにしても、将来に向けた資産形成は必要だ」と思うようになり、友人の間でも話題にのぼることのある“投資”を「自分もやってみようかな……」と軽い気持ちで始めることにしました。

そこで佐藤さんは、ネット銀行の系列の証券会社に口座を開設。投資から得られる利益に税金がかからず、初心者にも取り組みやすいと聞いたことのある「つみたてNISA」で、毎月3万円投資信託を購入、積立投資を始めました。

始めてから1年間は徐々に投資信託の評価額が増えていきました。それにより「投資は簡単だ!」と佐藤さんは考えるようになったそうです。ところが次の1年間は大きく減ることはないものの、前年のように増えることはありませんでした。

「もっと早く、簡単にお金を増やすことはできないかな……」と思い、株式投資にも挑戦することにしました。しかし銘柄を良く調べず購入したので、株価が下がると心配になって売却。短期間での売買を繰り返していくうちに、資産300万円が100万円に。200万円も減らしてしまうことになってしまったといいます。

資産形成を加速!の失敗パターン

佐藤さんは、初めて行った投資で利益が出たことによって、「投資をすれば簡単にお金が増えるもの」と勘違いしてしまいました。資産形成のスピードを加速させようと思うあまり、反対に資産を減らしてしまった佐藤さん。失敗要因は大きく2つ考えられます。

リスク性の高い商品

資産運用には、確実に貯めるために行う「預貯金」と、増やすために行う「投資」の2種類があります。将来のための資産形成を考える際には、手元にあるお金を整理して、普通預金や定期預金など、元本の保証のある金融商品も活用しましょう。

株式投資の魅力は、購入した株式の価格が上がり売却するときの譲渡益、会社から分配される配当金や株主優待などがあります。しかし投資した元本の保証はありません。

一般的に、株式投資は預貯金や投資信託に比べて、ハイリスク・ハイリターンの金融商品です。株価は、会社の業績のほかに経済的な要因や投資家の心理など、さまざまな事象の影響を受けて価格の変動が起こります。投資はどんな時でも資産が増え続けるものと思い込んでしまうと、大きな損失を被ることになります。

生活防衛資金を確保してない

投資を行うときは、手元にあるお金から、日々の生活に必要なお金や、近いうちに使うことが決まっているお金など除き、しばらくの間、使う予定のないお金をまわします。

退職する、病気やケガで治療が必要になるなど、収入が途絶えたり、急な支出が発生したりするときに備え、生活防衛資金を残しておかなければなりません。

投資を始める際は長期的な視点を持ちましょう。使ってはいけない金を投資に回すと、株式の値動きが気になり、売買を繰り返すことになりかねません。細かい値動きより、長い目で価格の動きを見守ることも必要です。

リスク許容度を知るという資産形成の大前提

金融商品の「リスク」とは、「危険なこと」という意味ではなく、「収益が不確実で予測できずブレがあること」をいいます。収益(リターン)はマイナスになり、損失が発生することもあります。どのくらいの範囲までなら損失が発生しても受け止めることができるかが「リスク許容度」です。

リスク許容度は、個人の環境によって異なります。たとえば、年齢や家族構成、収入や資産、投資経験、将来のライフイベントの数、性格などです。年齢が低い(運用できる期間が長い)人や収入や資産が多い人は、リスク許容度は高いといえます。

ほかの要素でリスク許容度が高くても、金融商品の価格が下がることに抵抗があり、心配で仕方がないという人は、リスクは取り過ぎないほうがよいでしょう。

資産形成で不動産投資はありか、なしか?

不動産投資は、分譲マンションやアパート、戸建て住宅などの不動産を購入し、それを人に貸して家賃収入を得たり、購入時より高く売って売却益を得たりする投資手法です。

ローンを活用した場合は、少ない初期投資額で資産形成を始めることができ、返済が終われば物件の資産の価値が残ります。家賃収入を安定的に得られるのでミドルリスク・ミドルリターンの資産形成法といわれています。

注意点としては、売却するときに購入価格より下がる可能性がある、空室になると家賃収入が受け取れない、自然災害で建物が損壊する可能性がある、ローンの金利が上がると家賃収入だけではローン返済が困難になる、などが挙げられます。

リスク対策を欠かすことはできません。自身で不動産投資について学んだうえで、信頼できる不動産業者のアドバイスを参考にし、資産形成に役立てることが大切です。

 

 

著者:藤原 洋子
FP dream 代表FP

大学卒業後、食品メーカーに就職。結婚を機に退職後、専業主婦期間を経て国内大手生命保険会社に転職。営業担当として約12年間、保険商品の販売等を行う。FP資格を活かし、2016年から独立系ファイナンシャル・プランナーとして、マネー相談、執筆、勉強会の運営などを行っている。保険の活用と老後を見据えた資金計画、相続について、わかりやすくお伝えしている。