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空室リスクなし、家賃収入が保証される……。「サブリース契約」は、多忙なオーナーにとって魅力的な仕組みです。しかし、突然の家賃減額要求、高額な違約金、入居者を選べないといったトラブルも多発しています。消費者庁も注意喚起するサブリース契約の法的リスクと、「家賃保証」という言葉の裏にある実態を弁護士が解説します。
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「こんなはずじゃなかった……」サブリース契約・恐怖のトラブル事例
「空室リスクもないし、毎月安定収入が入る」と説明され、サブリース契約を結んだAさん。新築アパートを建て、家賃保証の安心感からローン返済計画も順調に進むものと信じていました。ところが、契約からわずか2年後、サブリース会社から突然「近隣の賃料相場が下がったため、来月から家賃を2割減額したい」との通告が届きました。拒否すれば「契約解除もあり得る」と告げられ、Aさんは困惑。家賃保証のはずが“保証”されない現実に直面したのです。
Bさんの場合は、老朽化による建替えを理由に契約の解約を申し出たところ、「契約期間の途中解約にあたる」として数ヵ月分の家賃に相当する違約金を請求されました。しかも、入居者募集や退去時の修繕方針もすべてサブリース会社に握られており、オーナー自身が物件の運用に関与することもできませんでした。
このように「家賃保証」「安定収入」といった甘い言葉の裏には、オーナーに不利な契約条項が潜んでいるケースが少なくありません。実際、消費者庁や国土交通省もサブリース契約のトラブル増加に警鐘を鳴らしており、慎重な判断が求められます。
なぜ「家賃保証」でも減額されるのか? 法律(借地借家法)の仕組み
サブリース契約は、「家賃保証」と説明されていても、法的には「オーナー(貸主)とサブリース会社(借主)との間で締結される『賃貸借契約』」の性質を持ちます。このため、借地借家法の適用を受け、サブリース会社にも「家賃の減額請求権」(同法32条)が認められています。つまり、サブリース会社が「近隣相場が下がった」「入居率が悪化した」などの事情を理由に、賃料の減額を求めることは法律上可能なのです。
一見、契約書に「家賃を減額しない」と明記されていても、その特約が賃借人(サブリース会社)に不利な内容である場合、借地借家法の強行規定により無効とされる可能性が高いのが実情です。実際、過去の裁判例でも「市場価格との乖離が著しい場合には、契約書の定めにかかわらず減額請求が認められる」と判断されたケースが存在します。
オーナーからすれば「家賃保証とは名ばかり」と感じられますが、法律上はサブリース会社が“借主”として手厚く保護される構造にあります。そのため、市場が下がれば減額請求され、上昇しても据え置かれるという、一方的なリスクを負う結果になりやすいのです。
契約前に絶対確認! オーナーを守るための「3大チェックポイント」
サブリース契約でトラブルを避けるためには、契約書の精査が欠かせません。とくに次の3つの条項は、後の「家賃減額」「中途解約」「原状回復費用トラブル」に直結するため、必ず確認してください。
ポイント1:賃料改定の条件
「3年ごとに協議のうえ見直す」といった条文がある場合、一見“協議”と書かれていても、実際にはサブリース会社が一方的に減額を提案し、合意を迫るケースがあります。「協議の上」や「相場に応じて」など、抽象的な文言ほどリスクが高いと考えてください。
ポイント2:中途解約の条件
契約期間中にオーナーから解約できない条項や、「解約にはXヵ月分の違約金を支払う」といった定めがある場合、事実上の拘束状態となります。契約期間・更新条件・違約金の有無は最重要確認事項です。
ポイント3:原状回復の範囲
退去時の修繕費用を誰が負担するのか、契約書に明確な定めがないと、オーナーが想定外の費用を請求されることもあります。特に「サブリース会社が行ったリフォーム費用をオーナーが負担する」といった条項には十分な注意が必要です。
契約前にこれらの条文を専門家にチェックしてもらうだけでも、将来のトラブルを大幅に防ぐことができます。
もし減額要求されたら? オーナーが取るべき法的対処法
サブリース会社から「家賃を下げたい」と減額を求められた場合、焦って応じてはいけません。
まず重要なのは、「なぜ減額が必要なのか」という根拠を確認することです。近隣の賃料相場、入居率、建物の老朽化など、客観的かつ合理的な事情があるのかを明らかにしなければなりません。単に「相場が下がった」「経営が厳しい」といった抽象的な理由だけでは、法的に減額が認められるとは限りません。
次に、サブリース会社から提示された「減額合意書」や「覚書」には、安易に署名しないことが大切です。一度合意してしまうと、将来的に賃料を元に戻すことが極めて難しくなります。特に「減額後の家賃を新たな基準とする」といった文言が含まれている場合、元の家賃を請求できなくなるおそれがあります。
交渉がこじれた場合は、地方裁判所の「賃料減額調停」や訴訟で適正賃料を争うことも検討すべきです。これらの手続きでは、不動産鑑定士の評価や近隣事例が重視されます。オーナー単独で対応するのは負担が大きいため、早い段階で弁護士に相談し、交渉代理や証拠収集を任せるのが賢明です。
安易な譲歩は将来の損失につながりかねません。減額請求を受けた際は、まずは冷静に契約書と法的根拠を確認し、専門家のサポートを受けることが最善の防御策です。
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サブリース契約は「家賃保証」ではなく「賃貸借契約」
「家賃保証」と聞くと、オーナーにとって安心な仕組みに思えますが、実際のサブリース契約は借地借家法に基づく家賃減額請求など、オーナーに不利なリスクを内包しています。契約書の文言ひとつで、数年後に想定外の減額や高額な違約金を求められるケースも少なくありません。
もともとサブリース業者は「賃借人」として非常に強い立場にあり、裁判例上も、オーナーからの解約が認められることは容易ではありませんでした。もっとも近年は、正当事由の補完として立退料を支払うことでオーナー側からの解約を認める裁判例も見られるなど、司法判断も徐々に変化の兆しを見せています。
重要なのは、「契約前に内容を理解し、曖昧な条項をそのままにしない」ことです。賃料改定・中途解約・原状回復など、トラブルの原因となりやすい項目は、必ず専門家と一緒に確認しておきましょう。
もしすでに減額要求や契約トラブルが起きている場合も、弁護士に相談することで、適正な交渉・調停・訴訟対応を通じて不当な要求を防ぐことが可能です。
「家賃保証」という言葉に安心せず、法律的な裏付けを持った判断で、ご自身の資産を守ることが何より大切です。
<執筆者>
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家で発生した不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力している。法律トラブルは表面化しにくく、早期対応こそが最善策につながるという考えから、セミナー講師としての情報発信にも積極的に取り組む。「不動産に強い」との評価から不動産相続案件の依頼が増え、複雑な相続や特殊訴訟も数多く担当してきた。相続開始直後の緊急相談から、事前の生前対策まで幅広く対応し、円満かつ実務的な解決を重視する。税理士・司法書士・不動産鑑定士らと連携し、依頼者ごとに最適な解決策と再発防止策を提案している。