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年収は人並みにあるはずなのに、いや、それ以上の高給取りながら、なぜか貯金が少ない。そんな悩みを多くの人が抱えています。今回、年収2,000万円を超える高給取りにも関わらず貯金が少ないという45歳のサラリーマンの悩みについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が回答します。
貯金ができないたった一つの理由
お金が残らない人に共通することがあります。それは、家計簿をつけていないことです。
ダイエットで効果があるのは「毎日体重を測って記録すること」であるように、家計においても収支を記録する習慣がある世帯では、年収に関係なく貯金が貯まっています。「痩せたら体重を測ろう」という人はたいてい痩せないのと同じで、「貯金が貯まり始めたら家計簿をつけよう」と考えて成功した人は稀でしょう。家計簿をつけて「使途不明金」や「物価上昇」に気づく習慣がないとお金は貯まりません。
年収350万円の35歳シングルマザーに貯金が1,000万円あったり、年収1,000万円の33歳会社員の貯金がゼロであったりと、収入額と貯金額はまったく比例の関係にないようです。しかし誤解が無いようにいうと、貯金がないことが必ずしも悪ではありません。貯金が無かったとしても、お金を使って旅行や趣味に勤しむことで人生経験は豊かになっていきます。経験しないよりも経験した方が人生は楽しくなるはずです。
ただ、貯金がゼロのままでは特にリタイア後は厳しい生活となってしまいます。それは高収入のエリート会社員でも同じです。現役時代の生活水準が高いほど、老後に惨めな思いをしかねません。
事例を紹介しながら、高収入会社員にとって貯金がないことのリスクと、これからの貯蓄作りと資産運用について考えていきます。
45歳外資系サラリーマン…年収2,000万円、金融資産は250万円
[事例]
Fさん:45歳、外資系コンサルティング会社勤務
年収:2,100万円
金融資産(普通預金のみ):700万円
家族:妻(38歳、専業主婦)長女(10歳)
住まい:分譲マンション(住宅ローンは完済)
Fさんは外資系企業に勤務する45歳です。22歳で就職したメガバンクを29歳で退職し、現在の勤務先に転職しました。最近の悩みは「貯金が少なすぎる」こと。普通預金に700万円が入っているだけです。
Fさんは19年前の26歳のとき、まだ独身でしたが将来のことを見据えて都心にマンションを購入しました。まだ今ほど価格は高騰していなかったものの、価格は6,500万円。自分の年収で借りられる上限まで住宅ローンを借りました。完済するのは61歳。定年退職とほぼ同時に完済できるだろうという見通しだったのです。
29歳での転職は成功でした。業績は順調に伸び、年収も銀行員時代の1.5倍に。34歳で7歳年下の女性と結婚し翌年長女が誕生。独身時代に購入したマンションで、親子三人で暮らしていました。39歳のときに仕事で大きな契約に成功し超高額のインセンティブ給をもらう年がありました。妻と相談し住宅ローンを全額繰上げ返済したのです。
40歳を超える頃には年収は2,000万円を上回りました。それまで住宅ローンの返済が心の負担になっていたFさんでしたが、完済したことで羽を伸ばしてもいい気分になったのでしょう。妻から見てもお金遣いが荒くなっていきました。ドイツ製の高級SUVを買い、取引先の経営者たちとハワイにゴルフ旅行に行き、仕事用には高級すぎる革靴を毎月のように買い……そのような姿を見て、妻は「そんなことが続けられる年収じゃないでしょ」と何度も諭す有様です。
借金はないものの、入って来ては使い切るという潔すぎる生活を繰り返した結果、45歳の現在、貯金は700万円しか残っていません。これも妻が教育費として貯めたものであり、Fさん個人の貯金はほぼゼロなのです。
職場で貯金の話になったところ、同世代の同僚Iさんが1億円弱といっていて驚愕しました。年収は同じくらい、金遣いの荒さは似たようなものと思っていましたが、なぜそんなに差がつくのか……。昨年Iさんのお父様が亡くなった時も何も相続しなかったといいます。1億円も貯めた方法を訊いてみると、株式投資の他にも現物不動産投資も行っているとのこと。Iさんから紹介され、ファイナンシャルプランナーと話をすることにしたといいます。
あまりケチなことはしたくないFさん
「ちょっとお金使いすぎちゃったみたいです」とFさんがいいます。「もっと節約しないとダメですかね」
それを聞いてFPはこう言います。
「節約してお金を貯めるという考え方は、Fさんは本音では好まないのではないですか。欲しいものも買わずに5,000円節約をして、オルカン(日本を含む全世界の株式市場の動きに連動する投資成果を目指して運用される、インデックス型の投資信託)に入れましょう、みたいな今どきの話は好かないのではと思うのですがどうでしょうか」
「まったくその通りです。職場の若い後輩たちがみんなその手の話をするんですよね。1ヵ月分のスタバのお金があったら投資に回せるとか。正直、小さいなあと思っています。でもお金を貯めるにはそんなことをしなければならないのでしょう?」とFさん。
「特にZ世代は将来への不安感を強く持っていますから、目先の楽しみに罪悪感があるのかもしれませんね。Fさんは若者の真似はしないでおきましょう。Fさんは金融投資だけではなく、もっと複数の投資を組み合わせて資産を作るべきです」
FPがすすめるFさんの資産形成
Fさんにとって今後に必要な資金を計算してみると、娘さんの大学資金として約1,000万円の一時金、老後に公的年金以外に1億5,000円程度の「貯金か収入」が必要だと分かります。1億円と聞くと驚きますが、リタイア後のマンション売却、勤務先の持ち株の売却、それに加えて退職金を加えると、65歳時に一時金で7,000万円ほどは準備できそうです。残り8,000万円を準備する必要があります。
「あと20年で8,000万円か……」とFさんは神妙な顔になります。
8,000万円とはいえ、一時金だけではなく、リタイア後も収入として継続的に入る見込みがあればいいのです。
資産形成には、まず「現預金」を十分貯めることを優先にします。現預金を貯めるためにはやはり家計簿は欠かせません。収支を記録し続けるだけで十分です。それだけで家計のダイエットは成功します。毎月とボーナス時に少しずつ貯蓄用の普通預金にお金を移すことがすぐできるようになるでしょう。高収入の人ほど難しくないはずです。
家計簿をつけずに、いま所有の高級SUVを軽自動車に替えたところでおそらくお金は貯まりません。間違えた家計のダイエットをすると、狂ったように安い車を買い替えては満足しない人になってしまう人も多いのです。Fさんは使途不明金を明確にするだけで十分現金が貯まります。
次に、リタイア後の一時金を貯める手段です。まずは少しでもNISAを利用する。ただしノーリスクではありません。現在は株価が上昇し続けているので、ついこれが続くと勘違いしがちです。NISAに限らず株式投資は価格変動のリスクがあり、極端に下がってしまった場合、必要な時にお金を使えなくなる事態も想定しておく必要があります。
次にリタイア後に継続して収入を得るための資産運用を考えてみましょう。Fさんのような高収入の会社員だけが優遇される投資があります。それがアパート投資です。アパート投資はつみたてNISAのように誰でもできる投資ではなく、ごく限られた一部の条件の人だけが可能です。
建築費用と土地費用がなければ、基本的にアパート経営は無理ですが、高収入の会社員には銀行から融資を受けることができます。これがもし株式投資であれば、タネ銭を銀行が融資してくれることはありません。これがアパート経営は収入が安定した高収入の会社員だけができる投資といわれるゆえんです。会社員という立場は資産形成のチャンスになるのです。
アパート投資と聞くとリスクを強くイメージしてしまう人も多いはずです。僻地に建てられた空室だらけのアパートを誰しも見たことがあるでしょう。しかしそれは例外的なもので、無計画な建築と運用であった場合のみです。一定の時間と手間を惜しまないのであれば、アパート投資は安定的に毎月現金収入が得られる資産運用にすることが可能です。また現物不動産投資は「土地」「建物」という現物資産を所有しているため、金融投資と異なり世界情勢にあまり影響を受けないことも魅力です。金融投資と現物不動産投資、リスクが異なるため分散投資には理想的です。
立地戦略、入居者のペルソナ設定、建物のクオリティ(壁が薄いと騒音問題で退去されやすい)、火災や孤独死などのリスク対策、売却計画、利回り計算など手間数が多く、決してほったらかし投資にはなりえないのがデメリットですが、ビジネスセンスがある人であれば経営自体も楽しめるのではないでしょうか。
不動産投資は独学と我流では非常に難しく、建設から運用、売却まで一貫して伴走してくれる不動産運用会社のアドバイスが重要です。
〈著者〉
長岡 理知
長岡FP事務所 代表
2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。