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老後を見据えて進める資産形成。「夫婦で2,000万円必要」とよく耳にしますが、ライフスタイルによって必要な金額は人それぞれ。今回は「40代でFIREを実現させたい」と夢を抱く、外資系金融勤務の32歳男性の場合についてみていきます。

誤解していない?「FIRE」の本当の意味

FIREという言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取った言葉で、経済的自立・早期リタイアという意味になります。

日本発祥の言葉ではなく、もともとは欧米で流行した言葉です。定年退職まで働くというのが日本の会社員の労働スタイルですが、これに対してもっと早くに経済的な準備を行い若くして退職するという考え方が欧米で定着しています。

ただこれだけを聞くと、こう思う方もいるかもしれません。

「億万長者になったら働かなくて済むという意味でしょう?」

ビジネスで大成功した経営者が会社を売却して早くに引退するイメージなのかもしれません。ところがFIREはそういう意味合いとは少し違います。FIREは、「資産運用によって資産を形成し、その運用益で生活できる目途が経ったら退職をする」というのが正しい考え方です。昨今、FIREという言葉を用いて投資詐欺やネットワークビジネスなどを勧誘する事案が目立ちますが、それらはFIREの意味合いを理解していないか悪意を持って利用しているので警戒したいものです。

FIREの4%ルールとは

FIREには4%ルールという考え方があります。これは米国株式のインデックス投資(S&P500)が7%で運用され、インフレ率が3%であった場合、その差の4%で生活できれば資産は目減りしないという意味です。

2億円の資産があったら、その4%は800万円です。年間800万円で生活ができたらリタイア生活が成り立ちます。

しかしこれはアメリカでの考え方です。米国株式がずっと7%で成長すると信じるのは金融リテラシーが怪しい人だけでしょう。それに、そもそも2億円の金融資産をリタイア時に用意できる人は限られます。会社員が資産運用のみで1から2億円の金融資産を形成するのは不可能に近いと言えるでしょう。新卒社員の時から金融資産2億円を目指し、行き過ぎた節約に走り資産運用に執心する人達もいますが、若さと人生のイベントを無駄にして中高年以降の人生に期待するというのも本末転倒のような気がします。

しかし、会社員にとって自分の人生を勤務先に委ねられるほど安心できる時代ではないのも確かです。もし40代になって勤務先から突然放り出されたとしても、自分と家族の人生を守れるように準備したいもの。そういう意味でFIREの準備は特に高所得の会社員にとって必須の自己防衛術といえるかもしれません。

そのためにどう考え行動していくべきでしょうか。ここで高所得者ながらFIREの準備を始めた会社員の事例をご紹介します。

 

[事例]

Aさん:32歳、外資系証券会社勤務

年収:1,500万円

預貯金:2,500万円

独身:結婚を考えている恋人あり

住まい:賃貸マンション、家賃20万円

 

Aさんは都内の外資系証券会社に勤務する32歳の会社員です。現在は機関投資家向けの営業を担当しています。新卒で就職してから順調にキャリアを積み上げ、現在はベース給で1,000万円、インセンティブ給で500万円という年収です。激務であるため都心の1DKの賃貸マンションを借りて、終業が深夜になっても徒歩で帰ることができるようにしています。

大学時代の友人も羨むような年収と勤務先ですが、Aさん自身は最近心の中でモヤモヤが晴れません。高所得とはいえ、それは歩合給があっての話。立場が不安定な外資系企業ですからいつ解雇の憂き目にあうか分かりません。業務もかなりの激務で疲れ切っています。社内での競争にも興味が薄くなっていて、このまま年をとってもいいのかと毎日疑問に思うのです。

Aさんには結婚を考える29歳の恋人Sさんがいますが、Sさんは東京都内の大学病院で看護師として働いています。Sさんは体力があるほうではないため、看護師の仕事を続けられるのもあと10年程度と考えているといいます。

2人とも高所得であるため、結婚するといわゆるパワーカップルとなるのかもしれませんが、AさんとSさんはそのような言葉に興味は一切ありません。ペアローンで都心のタワーマンションを買うなど馬鹿げていると考えています。

2人が今思い描いているのは、いわゆるFIREです。あと10年程度でどちらも仕事をやめ、もっと落ち着いた場所に引っ越してセカンドライフを始めることをイメージしています。

しかしAさんは勤務先の規則により株式投資は自由にはできません。投機的な売買は厳禁であるためFIREの前提となる積極的な投資活動が難しいのです。

Aさんが経済的自立と早期リタイアを実現するためには、どのような考え方・方法があるのでしょうか。FPに相談してみることにしました。

FPからの提案…サイドFIREのススメ

AさんがFPに説明したポイントは次のようになります。

 

  • FIRE前は株式投資ができない
  • 45歳までにはFIREしたい
  • FIREしたら都心暮らしはやめ、郊外に引っ越したい
  • 婚約者のSさんは看護師であるため転職ができる

 

まず考えるべきであるのは、FIRE後の毎月の生活費をいくらと想定するかです。Aさんは月に70万円を想定しているとのこと。現在よりも生活水準を下げたくないということ、郊外に引っ越したとしても安くなるのは家賃だけであることからこの金額となりました。

婚約者のSさんの転職後の月収が手取り20万円とすると、Aさんが調達すべき毎月の収入は50万円です。

もし株式投資で年4%の運用益を得るとすれば、月あたり50万円(年間600万円)を得るために必要な原資は約2億円です。Aさんにとってあと10年間でこれは不可能です。

そこでFPが提案したのは「サイドFIRE」です。

自分のビジネスを持ち生涯にわたって収入を確保しながら、資産運用を合わせていく方法です。会社員にとってはこれが現実的かもしれません。

 

  • 資産運用による運用益
  • 自分のビジネスによる収益

 

複数の収入源を合わせて目標の月収を作っていくと考えると分かりやすくなります。まず、45歳までに預貯金5,000万円を作ります。現在の預貯金は2,500万円であるため、13年間、毎年193万円を貯めていく必要があります。Aさんの年収から無理のない範囲でしょう。

FIRE後はこの5,000万円を4%で運用できたら、運用益は年間200万円。手取りで160万円ですから月あたり約13万円ということになります。

次にAさん自身が持つビジネスを考えていきます。ひとつに不動産投資が候補に考えられます。もし家賃収入で毎月50万円の家賃収入を得るとしたら、表面利回り6%として1億円程度の物件が必要となる計算です(ここから諸経費が差し引かれ実質利回りとなるため、月あたりの収益はもっと少なくなることに注意)。住宅ローンを借りていないAさんであれば、金融機関からの融資を活用して利回りを確保することができるかもしれません。

預貯金の資産運用と不動産投資の家賃収入、配偶者の収入、これらを合わせて月に70万円程度が実現できます。

ビジネスによる収入の部分を不動産投資だけに限定させないことも検討すべきです。不動産投資によって生まれた時間をレバレッジして、スモールビジネスをもうひとつ持つことも有効です。不動産投資からの月収を20万円、スモールビジネスからの月収を17万円と分割して予算建てすると、所有する収益物件の価格はもう少し低くてもいいことになります。今から副業を持つということもFIREの一助となるのです。

高所得の会社員にとって不動産投資は相性良し

不動産投資による家賃収入は、多くの人が憧れる資産運用のひとつです。しかし、向いている人と向いていない人に分かれるのが現実です。不動産投資に向いているのは

 

  • 不動産投資についての勉強を継続的にできる
  • コスト意識を持てる
  • マーケティングの考え方がある
  • 経営上の細かい数字を読み解くことが苦ではない

 

といった人です。不動産投資にまったく不向きであるにもかかわらず、安易にマンション投資に手を出し、大損した人が職場の先輩同僚に少なからずいるでしょう。

しかし不動産投資は金融投資と違って手間がかかるものの、勉強を重ね、良い不動産業者との関係を得て、物件を着実に買い増していくことができればFIREを実現する近道となります。物件を買うためには会社員としての金融属性(勤務先、年収など)が良好でなければなりません。その点、大手企業に勤める高所得の会社員には非常に有利です。

 

 

〈著者〉

長岡 理知

長岡FP事務所 代表

2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。