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順調に棟数を増やし順調に見える投資家が、実はキャッシュフローが悪化していて、気づかぬうちに資産価値が毀損していくという「規模拡大の罠」に陥るケースは少なくありません。なぜ、このような状況になるのでしょうか。大家が意識すべき「パートナー選び」の条件について、具体的な事例を交えながら解説していきます。
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年収3,000万円医師の告白「物件は増えたのに、お金がない」のなぜ
Aさんは都内の総合病院に勤務する40代の医師です。年収は3,000万円を超え、資産を増やすために不動産投資に強い関心を持っていました。数年の間に異なる不動産会社を通じて、首都圏近郊にアパートを3棟購入。資産規模は順調に拡大し、一見、理想的な資産形成が実現できているように見えました。
しかし、Aさんには深刻な悩みがあります。物件は増えているのに、なぜか手元にお金が残らないのです。一体なぜでしょうか。
Aさんは、物件を購入したそれぞれの不動産会社に、そのまま管理を委託していました。しかし、各社から送られてくる報告書の形式や内容はバラバラで、自身の資産の全体像を正確に把握することが困難な状態でした。
ある会社からは詳細な月次レポートが送られてくる一方で、別の会社からは簡単な収支報告のみ。不動産投資のプロではないAさんにとって、これでは自分の「事業」の実態が分かりにくかったのです。医師であるAさんは多忙であるため、不動産投資に向ける時間は限られています。実態のわかりづらさと時間の限界によって、経営判断が常に遅くなっていました。
さらに深刻だったのは、個々の物件が抱える問題でした。一つのアパートは、数ヶ月にわたって空室が埋まらないまま放置され、その間のローン返済が重くのしかかっています。また、別のアパートでは、入居者が退去するごとに発覚する小規模な損傷の修繕が積み重なり、想定した以上の出費が発生しています。棟数が増えても、キャッシュフローは悪化の一途をたどる。まさに「規模拡大の罠」に、Aさんは陥っていたのです。
“似て非なる”管理会社の実態とキャッシュフロー悪化の要因
Aさんが陥った状況は、決して珍しいケースではありません。多くの不動産オーナーが直面するこの問題の原因のひとつは「管理会社選び」にあります。Aさんが契約していた2社の実態を例に、キャッシュフローが悪化する仕組みを解説します。
まず、Aさんが最初に契約したA社は、「業界最安水準」を謳う管理手数料の安さが魅力の会社です。しかし、その実態は、オーナーへの報告を月次のレポート送付のみで済ませてしまう、いわゆる「受け身」の管理会社でした。Aさんの物件で空室期間が長引いても、A社から具体的な対策が提案されることはほとんどありません。
ただ「広告費を増やしましょう」と追加の費用を請求されるばかり。これでは、空室が埋まらない本当の理由、たとえば賃料設定が相場と乖離しているのか、室内の設備が時代遅れなのか、といった本質的な問題が解決されません。オーナーが自ら問題点に気づき、改善を指示しなければ、状況は一向に好転しないのです。繰り返しますが、Aさんのように多忙な本業を持つ人であれば、事業の改善と検証に多くの時間をかけられません。
次に、2棟目の物件の管理を任せていたB社は、物件の売買仲介をメインとする会社でした。このような会社では、賃貸管理はあくまで付帯的なサービス、いわば「片手間」の業務と捉えられがちです。その結果、対応の遅れが発生します。たとえば、「蛇口から水が少し漏れる」といった入居者からの連絡に対し、「強いクレームではないから」という理由で迅速な対応がなされない。何度か催促されてやっと対応する。こうした小さな不満の積み重ねが、入居者の満足度を低下させ、契約更新のタイミングでの退去に繋がってしまいます。対応の遅れは、入居者からの訴訟問題に発展することもあります。結果的に高額な修繕費用をオーナーが負担することになりがちです。
このように、手数料の安さや購入時の付き合いだけで管理会社を選んでしまうと、オーナーが気づかぬうちに「資産価値の毀損」が進行します。空室の長期化は収益機会の損失だけでなく、物件の評判を落とします。不人気の問題物件という評判が立ってしまうと、売却時も不調に終わり、事業全体の収益に悪影響を及ぼします。
FPからの処方箋「事業としてのポートフォリオ再構築」
この深刻な状況を打開するため、FPとしてAさんに提案したのは、単なる管理会社の見直しに留まらない、「事業」としての視点に立ったポートフォリオの再構築でした。
まず着手すべきは、バラバラになっている管理会社の見直しと集約です。3棟の管理を、信頼できる一社に集約することによって大きなメリットがあります。
第一に、報告形式が統一され、資産全体のキャッシュフローや課題が一目で把握できるようになります。さらに担当者からのこまめな改善提案があると、経営判断のスピードと精度が格段に向上します。多忙なAさんにレポートがシンプルな形式で報告され、担当者が熱心に関与してくれることで、収益にいい影響を与えるはずです。
第二に、複数の物件を任せることで、管理会社との交渉力が高まり、管理手数料や修繕費用について、より有利な条件を引き出せる可能性も生まれます。
ただ、少々億劫なのは、既存の契約を解約する手続きです。
まず、現在締結している「管理委託契約書」を確認してください。「解約予告期間」に関する条項は重要で、一般的には解約の申し入れを3ヵ月前までに行うと定められているケースが多く見られます。また、契約期間中の解約に「違約金」が発生するかどうかも必ず確認すべき点です。
これらの契約内容を把握した上で、次の信頼できる管理会社を選定しておくと、その後の移行がスムーズに進みます。そして、契約書の内容に従い、書面で「解約通知書」を作成し、現在の管理会社に送付します。この際、いきなり書面を送付するのではなく、事前に電話などで解約の意向を伝えてください。
無事に解約の申し入れが受理されたあとは、新旧の管理会社間で、入居者情報や鍵、敷金の精算といった業務の引き継ぎを行ってもらいます。最後に入居者へ管理会社変更の通知と、新しい家賃振込先を案内して、一連の手続きは完了となります。
次に、中長期的な視点として検討すべきが、資産管理会社の設立、すなわち「法人化」です。
Aさんのように高年収の人が個人名義で不動産所得を得る場合、所得税と住民税を合わせると最大55%もの高い税率が課せられます。しかし、法人を設立し、法人名義で物件を所有すれば、法人税率が適用されるため、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
また、経費として認められる範囲が広がったり、家族を役員にすることで所得を分散したりと、さまざまな節税メリットが享受できます。もちろん、法人設立や維持にはコストがかかるといったデメリットもありますが、資産規模の拡大を目指す上では、前向きに検討すべき重要な選択肢です。
これらすべてを実行する上で核となるのが、Aさんの資産を10倍に育てていくための「パートナー企業」をいかに見極めるか、という点です。失敗しないパートナー選びには、いくつかの明確な条件があります。
第一に、物件の開発や販売から、賃貸管理、そして将来の売却といった出口戦略までを一気貫通でサポートできる体制があること。
第二に、目先の利回りだけでなく、エリアの将来性や人口動態、そして計画的な大規模修繕まで見据えた「長期的な視点」での提案力、コンサルティング能力があること。
第三に、収支報告はもちろん、現在抱えている課題やその改善策について、オーナーと「密度の高いコミュニケーション」を取ってくれること。
管理会社を分散させるメリットはまったくないといえます。
棟数を増やすだけではキャッシュフローは増えない
不動産投資における規模の拡大は、多くの投資家が目指す目標です。しかし、Aさんの事例が示すように、物件をただ増やしていくだけでは、かえって経営を圧迫し、資産を毀損させる「罠」に陥る危険性をはらんでいます。大切なのは、一つ一つの物件を、そして資産全体を、いかに健全に運営し、価値を高めていくかという「事業経営」の視点です。
その成功の鍵を握るのが、表面的な利回りや手数料の安さといった目先の数字に惑わされず、資産形成を長期的に伴走してくれる「真のパートナー」の存在に他なりません。開発から管理、そして未来の出口戦略までを見据え、共に汗を流してくれる。そうしたパートナー企業こそが、あなたの大切な資産を守り、着実に育ててくれるはずです。
今一度、ご自身のパートナーがその条件を満たしているか、見つめ直してみてはいかがでしょうか。それが不動産投資を成功へと導く、重要な分かれ道となります。
〈執筆者〉
長岡 理知
長岡FP事務所
代表
2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。 住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。