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高齢者の単身入居が増えるなかで、「物件内で転倒し骨折した」「段差につまずいて救急搬送された」といった事故が現実に起きています。こうした場合、物件オーナーが損害賠償を請求される可能性はあるのでしょうか? オーナーが負う「安全配慮義務」の範囲、バリアフリー義務の有無、予防的対策や契約書への記載方法など、弁護士が解説します。
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「共用部や室内で転倒」した場合、オーナーに責任は?
賃貸住宅において、高齢入居者が共用部や室内で転倒しケガを負った場合、オーナーが損害賠償責任を負うかどうかは、事故原因と物件の状態によって大きく変わります。民法601条・415条に基づく安全配慮義務や、717条の工作物責任が問題となる場面です。
たとえば、階段の滑り止めが摩耗している、廊下の照明が切れたまま放置されている、床の段差や破損が未修繕といった「通常あるべき安全性を欠く状態」が原因なら、オーナーに責任が認められやすくなります。一方で、入居者が不注意で転倒した場合や、予測困難な偶発的事故では、オーナーの責任は限定的です。
重要なのは、日常的な点検・修繕の履歴を残し、危険箇所が見つかれば迅速に対応することです。また、構造的に危険を排除できない箇所には警告表示を設けるなど、予防措置を講じておくことが求められます。さらに、施設賠償責任保険に加入しておけば、万一の賠償請求にも備えられます。
高齢化が進むなか、オーナーの責任判断は一層シビアになる傾向があり、「事故が起きたらどう対応するか」だけでなく、「事故を未然に防ぐ管理体制を構築する」視点が不可欠です。
バリアフリー化はオーナーの「義務」なのか?
賃貸住宅におけるバリアフリー化は、すべての物件に一律で義務付けられているわけではありません。現行のバリアフリー法では、新築または大規模改修を行う共同住宅で、延べ床面積が2,000平米以上の場合に限り、段差解消や手すり設置などの基準適合が義務化されています。それ以外の小規模物件や既存建物については、あくまで「努力義務」とされ、導入していないからといって直ちに違法とはなりません。また、高齢者が入居しているからといって、特別な法的義務が自動的に追加されることもありません。
しかし、努力義務であっても、実務上はリスク管理の観点からバリアフリー化を進めることが望ましいと言えます。段差や滑りやすい床材、手すりの不足といった物理的要因は、高齢者事故の主要な原因となるため、事故後の損害賠償請求や評判低下を防ぐ上でも、事前の改善が有効です。特に共用部や来客導線部分は、不特定多数が利用するため安全性の確保が重視されます。
小規模物件であっても、手すり設置や照明改善、段差解消など低コストで実施できる対策を検討することで、入居者満足度向上や長期入居の促進にもつながります。法的義務の有無だけで判断せず、「事故防止と物件価値維持」の両面から対応を検討することが重要です。
転倒事故を防ぐために、契約書・管理体制でできること
高齢入居者の転倒事故を防ぐには、日常的な物理的対策に加え、契約書や管理体制の整備も欠かせません。
まず契約書には、物件の現状や安全配慮の範囲を明確にし、入居者にも自己管理の重要性を理解してもらう条項を盛り込むことが有効です。たとえば、「物件の安全性確保のための点検協力義務」や「危険箇所を発見した場合の速やかな通知義務」を明記しておけば、事故発生時にオーナーの責任を軽減しやすくなります。また、管理体制としては、定期巡回や清掃時に危険箇所の有無をチェックし、修繕記録や写真を残すことが重要です。これにより、万一訴訟になった場合でも、適切な管理をしていた証拠となります。
さらに、施設賠償責任保険の加入や、事故発生時の対応マニュアルを管理会社と共有しておくことで、迅速かつ適切な初動対応が可能になります。高齢入居者が安心して暮らせる環境を整えることは、オーナーにとって法的リスクの軽減だけでなく、長期的な入居維持や物件の評価向上にも直結します。単なる設備改善にとどまらず、「契約」と「管理」の両面から予防策を講じることが、これからの賃貸経営では不可欠です。
高齢入居者の転倒リスクに備える、オーナーが実践すべきこと
高齢入居者の転倒事故は、賃貸オーナーにとって現実的なリスクです。事故原因が物件の構造や管理不備にあれば、民法上の安全配慮義務や工作物責任に基づき損害賠償を負う可能性があります。バリアフリー化は一律義務ではないものの、努力義務として事故予防の観点から積極的に進める価値があります。契約書で責任範囲や入居者の協力義務を明確にし、日常の点検・修繕記録や保険加入を組み合わせることで、法的リスクを軽減しつつ入居者が安心できる環境を維持することができるといえるでしょう。
特に、大きなケガが起きた場合、工作物責任という類型で争いになると、非常に長期化した訴訟に巻き込まれる形になります。そのため、施設賠償責任保険には加入し、予防対策に一定のコストを割いておくことも重要だといえるでしょう。