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金融市場が不安定ななか、高所得者の間では「インフレ対策」として不動産投資を検討するケースが増えています。しかし、不動産は本当にインフレ対策として機能するのでしょうか? 賃料や物件価値の上昇、ローンとの関係などを踏まえ、効果的な投資戦略を解説します。

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高所得サラリーマン、不動産投資セミナーに参加したが…

資産運用をする目的のひとつが、インフレ対策です。「インフレ=物価が上昇すること」と定義すると、インフレ前と後では、同じ100万円でも買えるものの量が減ってしまうことになります。そのため、少なくとも物価が上昇する分だけでもお金を増やしていかなければ、持っている資産が実質的に目減りします。

 

インフレ対策としてNISAなどの制度を使って資産運用をする人が増えているのには、このような考え方があります。

 

しかし最近、金融市場が大荒れなのはご存じの通りです。株価が乱高下し、心理的に大きなストレスになっている人も多いでしょう。資産運用には長期的な視点が必要だと頭でわかっていても、米国の関税問題などを見ていると、安心には程遠いと感じます。

 

そんななか、資産運用を分散させる高所得者が増えています。金融投資だけではなく違う投資先を探すなかで、人気があるのが不動産投資です。不動産投資は現物投資でもあるため、金融市場の動きとタイムラグがあるとされます。不動産投資はインフレに強いといわれ、金融投資のリスクを分散させる効果があるのです。

 

しかし本当に不動産投資はインフレに強いのでしょうか。ある会社員の事例を紹介しながら、解説していきます。

 

会社員のMさんは、金融系企業に勤務する会社員です。37歳で年収2,000万円。同世代の会社員と比べ、十分な年収に恵まれているのはMさんも自覚しているのですが、インセンティブ給が収入の多くを占めるため、決して安心できない収入だと考えています。

 

高所得でも浪費はせず、10年ほど前から投資信託などで積み立て投資を行ってきました。株価が上昇する時期と重なり順調に資産額を伸ばしてきましたが、2025年に入ってからの金融市場の不安定さを肌で感じ、このままの資産ポートフォリオでいいのか不安になったといいます。

 

そんなとき、「インフレ時には不動産投資が有利」という広告を見て、セミナーに参加したのですが、本当にそれを信じていいのか自信が持てません。そこでFPに相談してみることにしました。

 

インフレでは不動産投資が有利とされる理由とは

「インフレになると現物資産への投資が有利であるのは間違いないです」とFPがいいます。インフレになると「モノ」の値段が上がり、貴金属、車、家電などの値段が上昇します。不動産もそこに含まれます。不動産はインフレになるほど値段が上がります。値段が安い時期に購入しておけば、値上がりした値段で売却でき、利益を得られるはずです。

 

東京都内のマンションがわかりやすい例です。新築分譲マンションの価格は1990年のバブル末期に迫る高騰を見せていて、海外からの投資マネーも流入しています。

 

不動産投資がインフレに強い理由はもう一つあります。それが「借入金」です。不動産投資をするためには、多くの場合金融機関から融資を受けます。この借入金は、「現金」であると考えることができます。インフレになると現金の価値が下がるため、借入金の実質的な価値も下がります。

 

不動産の値段が上がり、借入金が実質的に目減りしたら、投資効果が高まると言えるはずです。

 

 

インフレ対策を目的とした不動産投資には注意が必要

一見、インフレ対策としては理想的な不動産投資に思えますが、これはあくまでも理論上の話です。

 

実際には借入金は変動金利で融資を受けているケースが多いでしょう。インフレになると国は金利上昇へと舵取りをするため、借入金の金利も上がり、返済額が上昇してしまいます。そればかりではありません。金利が上昇すると不動産は売れにくくなります。昨今の物価上昇でも新築戸建て住宅の値段が上がり、特に分譲住宅の売れ行きが鈍っています。

これだけ見ても、決して不動産投資がインフレに強いとはいい切れないのがわかります。

 

 

インフレ対策よりも重要なポイント

不動産投資には、ふたつの収益源があります。ひとつは家賃収入(インカムゲイン)、もうひとつは売却益(キャピタルゲイン)です。不動産投資がインフレに強いというのはあくまでも理論上の話であって、この二つの収益を確保できなければ失敗に終わります。

 

インカムゲインを得るためには、所有物件を常に借りる人がいなければなりません。アパート投資であれば、満室に近い状態をキープできなければ、キャッシュフローは赤字となっていきます。もし所有物件で殺人事件や孤独死が発生した場合、その情報は一瞬でネット上に掲載されてしまいます。空室が埋まらなくなり、売却しようにも買い手がつきにくくなります。心理的瑕疵物件として、更地にしても売れないという事態になりかねません。

 

また、インフレになろうとも、家賃を変更するのはかなり困難な作業になります。賃貸借契約書には賃料・管理費の改定の項目があるため、本来であれば家賃の値上げはオーナーの正当な権利です。しかし強硬な姿勢を見せていると、入居者が引っ越してしまうこともありえます。収益性が下がってしまうと、インフレ対策どころではありません。

 

不動産投資、特に会社員が行うアパート投資やマンション投資は、インフレ対策を考える前に、収益を確保する経営努力が重要です。

 

〈執筆者〉

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。 住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。