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老後を見据えて進める資産形成。「夫婦で2,000万円必要」とよく耳にしますが、ライフスタイルによって必要な金額は人それぞれ。今回は「老後に必要なお金は4,000万円くらいかな」とイメージしているという、40代コンサル業の男性の場合についてみていきます。

老後のために「いくら」あればいいのか?

「長生きのリスク」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

本来長生きは喜ばしいことでしたが、現代の日本社会では長生きすることはリスクだと考える人が多くなっています。公的年金だけでは生活は成り立たないばかりか、老齢年金の支給開始年齢もどんどん高くなっています。長生きするほどお金が尽きて悲惨な生活になるリスクがあるということです。なんとも悲しい話です。

「自分には貧乏な老後が待っているのではないだろうか……」そう不安に思う人が沢山います。その不安は年収2,000万円を超えるような圧倒的会社員でも同じなのです。

年収2,000万円の会社員が老後に受け取れる老齢年金は、いくらでしょうか。実は報酬比例部分と基礎年金部分を足しても、1ヵ月あたり28万9,537円でしかありません。「約29万円もあったら十分じゃないか」と感じる人もいるでしょう。しかし、人にはそれぞれが望む「当たり前の生活レベル」があるのです。誰しも公的年金だけでは生活レベルを維持できないと言って過言ではありません。

「老後の2,000万円問題」が話題になったことがあります。これは2019年に金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」が公表されたことに伴う報道が発端になりました。

老後の30年間で2,000万円が不足するという試算です。しかし、この試算が想定する支出は決して豊かな老後生活とは言えない内容です。交際費が約2万円であるなど、年収2,000万円の人には厳しい内容でしょう。

年収2,000万円…勝ち組サラリーマンの悩み

ここで年収2,000万円をこえる勝ち組会社員の実際の様子を解説していきます。

[事例]

夫Aさん:42歳 コンサルティングファーム勤務 年収 2,000万円
妻Bさん:37歳 専業主婦
長男:15歳
次男:11歳
住宅ローン残債:6,200万円(残25年)
預貯金:2,750万円

夫Aさんはコンサルティング会社に勤務する会社員です。

年収は約2,000万円と圧倒的勝ち組でありながら、実はさほど預貯金が多くないことを気にしています。現在の預貯金は2,700万円。年収を考えるともっと金融資産が多くてもいいと思っているのです。

Aさんは同僚や先輩と同様、金遣いが非常に荒いと自覚しています。昨年は現金一括でポルシェを買い、ゴルフや旅行が趣味。会社の経費を使える時もありますが使えなくても、あまり考えずにお金を使い楽しんでいます。だからと言って、その生活スタイルをやめるつもりはありません。自由で楽しい暮らしをするためにお金を稼げる職業に就き、苦労して一定の地位にたどり着いたのですから。

妻Bさんは決して派手な人ではありませんが、裕福な家庭で育っているせいか基本的な生活レベルが高い状態。

長男は私立中学に通っています。学校納入費は年間130万円ほど。大学までストレートで進学できるこの学校に、次男も来年の受験を目指し、塾通いをしています。成績は良好であるため合格は間違いないでしょう。来年からは私立中学、私立高校の学費の支払いがあります。

自宅は10年前に1億500万円で購入したマンションです。妻の実家から1,000万円の援助を受け、Aさんの貯金1,000万円をあわせて頭金としました。住宅ローンの元金は8,500万円、毎月の返済は約22万円です。現在の残債は6,200万円あり残年数は25年です。

年収の高さからこれらの生活は難なくこなせますが、やはり預貯金が貯まりません。
40歳を超えたいま、ふと老後が心配になることがあります。定年退職という考え方があまり一般的ではない業界で、自分がいつまでこの仕事を続けられるのか分かりません。

「生活レベルを落とすことなく、せめて60歳で4,000万円は貯めておきたい」あまり根拠はなくAさんはそう考えていました。

FPに相談した結果…Aさんに必要な驚愕の老後資金額

Aさんは具体的に今後の資産形成について相談するため、FP事務所を訪れました。Aさんが相談したいポイントは次の二点です。

・老後もある程度満足な暮らしをするためには、どのくらいの貯蓄を持つべきか
・そのための方法は?

まず、Aさんのお金についての考え方、そしてリタイア生活の理想像について質問していきました。

真っ先にAさんが答えたのは、「お金はいくらあったとしても安心できない」という思いでした。それはなぜでしょうか。

「お金は使うと無くなるからです」というシンプルな理由です。仕事もプライベートもエネルギッシュなAさんは、お金を沢山使って遊ぶというバイタリティが強い人なのです。

「お金の寿命を延ばしましょう、とよくFPが言いますよね。だからお金を金利のいいところに預けて増やしながら使っていきましょうという理屈らしいのですが。でもそれ、僕には全く響きません。使ったらいずれ無くなるでしょう。僕は稼ぎ続けたいです」

「FIREという言葉も好きではないです。僕は何歳になっても稼ぎ続けたいし、現役でいたいです。悠々自適というと聞こえはいいですが暇なのは耐えられませんね」

その言葉を聞いて、FPはAさんの老後に必要とされるお金を試算していきました。その結果、60歳時点でAさんには少なくとも1億円が必要だということが分かりました。

「1億円ですか。4,000万円と想像していましたが、全然違いますね。でも1億円を貯めるためには何をしたらいいのでしょうか」

リタイア時にまとまった貯蓄を持つ必要はない

60歳あるいは65歳のときにいくら貯めるか、という考え方では少し無理があります。

今後20年間にもし積み立て投資によって税引き後1億円を貯めるとしたら、3%の運用としても毎月約32万円が必要です。金融機関への手数料を考えるともっと必要になります。

Aさんの今後の昇給などを考えるとそれも可能かもしれませんが、Aさんは1億円を減らしながら老後の生活を送ることになります。もし平均寿命以上に長生きをしたら、まさに長生きのリスクを抱えるでしょう。またいわゆる金融投資は世界情勢などによって大きく価格変動をするリスクがあります。

リタイア時にまとまった金額を貯めて、それを運用しながら消費していくのではなく、リタイア後も稼ぎ続ける方法を考える方が現実的です。

そこでFPが紹介したのは、金融投資(積み立て投資)だけではなく「現物資産投資」も同時に行う手法でした。

現物資産投資の代表は不動産投資です。不動産投資が金融資産と異なるのは、現物があるという点です。特に土地付きの資産(一棟アパートなど)は最終的に「土地」という資産が残り、世界情勢に関係なく「現物」が残るのです。

「元本割れがない」ともいえるかもしれません。不動産の現物投資は物件そのものを売却したときのキャピタルゲイン、あるいは家賃収入というインカムゲインの両方を狙うことが可能です。またアパートローンには団信(団体信用生命保険)を設定することができるため、万が一亡くなった時には残債が遺族に残らず、現物だけを残すことができます。一方で金融投資の場合は本人が亡くなったらそれ以降は積み立てることは出来ません。生命保険に加入していなければ遺族の生活は困ることになります。不動産の現物には生命保険としての役割もあるのです。

不動産投資は少しハードルが高く感じますが、マーケティングの知識とセンスがあり、ほったらかし投資では物足りないと思う方には非常に向いています。

一方でデメリットもあります。

よく誤解をされていますが、不動産投資、特にアパート経営のような現物への投資は、「不労所得」にはなりえません。土地の選定や入居者のペルソナ設定、金融機関からの融資戦略、メンテナンスの計画、さらに物件に買い増していく戦略設定など、作業量はかなり多くなります。投資というよりは副業に近いイメージかもしれません。

Aさんの回答…「稼ぎ続ける自分のビジネスを形成する」に興味津々

Aさんは、リタイア時にまとまった貯蓄を持つというよりも、稼ぎ続ける自分のビジネスを形成するという考え方に非常に関心を持っていました。

不動産投資は独学だけでは難しく、建設から運用、売却まで一貫して伴走してくれる不動産運用会社のアドバイスが重要です。

 

 

著者:長岡 理知
長岡FP事務所 代表
2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。