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節税にもなるし、資産形成にもなりますよ……そんなうたい文句で不動産投資(新築区分)を始める高所得サラリーマンは多いもの。しかしたびたび空室が発生し、想像していたようにうまくいかない、というパターンは多いもの。打開策は?

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ワンルームマンション投資は節税にもなるが…

「上場企業にお勤めの方限定」「医師限定」などとプライドをくすぐるようなキャッチコピーの投資セミナーの広告を見かけることがあります。実はそのセミナーの多くはワンルームマンション投資の勧誘に着地します。数千万円もする投資物件をフルローンで購入できる可能性のある「属性」に限定しているわけです。

 

広告の効果もあり、高所得のサラリーマンに投資用のワンルームマンションがよく売れています。ある程度の年収に限定されますが、ワンルームマンション投資は節税にもなります。なにより、先行きの見えない日本社会で、もうひとつの収入源を持ちたいという危機感の表れともいえるでしょう。

 

しかし、その投資がうまく行っているかというと、残念なことに多くの人が躓いています。

 

「部屋は空室ではないが、年間50万円以上の赤字を垂れ流している」

「たびたび空室となり、半年以上埋まらないこともある」

「節税のためとはいえ、手出しがこんなに多くて大丈夫なのか」

「資産形成になっている気がしない」

 

そんな不安や不満を持っている人が多いのです。

 

ワンルームマンション投資は奇跡的に格安の優良物件か、超富裕層の節税対策でもない限りうまくいかないもの。特に築浅マンションは利回りが低く、初心者のサラリーマン投資家が大きな利益を出すのは至難の業です。固定資産税や修繕積立金、設備の交換、老朽化に伴う家賃の減額などを含めて計算すると、ひとつの部屋から利益を出すことは困難であるとわかります。

 

マンション価格と日経平均株価は緩やかに相関しています。日経平均株価が極端に安かった2000年代後半にマンションを購入した方であれば、売却によって利益を得て終わることは可能かもしれません。今後の株価は誰にもわかりませんが、中古ワンルームマンションの価格がさらに高くなることは考えにくいでしょう。近年ワンルームマンション投資を始めて手出しがある人(赤字の人)は、今後黒字化するのは難しいかもしれません。

 

ワンルームマンション投資につまずいた、あるサラリーマンの事例をみていきます。

ワンルームマンション投資…空室の原因は?

[事例]

Nさん…43歳/独身/年収950万円/メガバンク本店勤務

・4年前に投資用ワンルームマンション購入

・残債…2,700万円

・預貯金…3,200万円

 

43歳のNさんは、東京都内のメガバンクに勤務するサラリーマンです。4年前、SNSの広告で「サラリーマンのための節税セミナー」を見つけ、軽い気持ちで参加しました。年収は比較的高いものの、手取り額は驚くほど低いのが現実。所得税と住民税が高すぎると感じています。

 

節税セミナーはまるで自分の悩みを代弁してくれている気がしました。個別相談に申し込み、そこでワンルームマンション投資を契約。価格は3,100万円でした。「節税効果を高めるため」にフルローン、35年返済としました。

 

家賃は10万円に設定。一方でローンの返済は毎月96,443円。毎月6,557円の利益があるものの、固定資産税、修繕積立金、設備交換などの経費を差し引くと、毎年50万円程度の赤字となる計算です。それによって15万円ほど節税できることになります。

 

「年間35万円を払えばマンションが手に入るのだから得だろう、35年後に1,225万円で売却できたら手出しはゼロで節税効果だけを得たことになる」Nさんはそう考えていたのです。

 

しかし、現実はそう甘くはありませんでした。「空室」という、Nさんの考えもしなかった事態が頻発したのです。

サブリースは手数料を節約するために契約しませんでした。せっかく入居者が決まっても半年も経たずに退去してしまうのです。そして数ヵ月にわたって空室が続きます。

空室になる理由を考えてみると、駅から遠いわけでもなく、近隣住民に問題があるわけでもないのですが、Nさんが気づいたのは、家賃設定の高さです。周辺相場より15,000円程度高いのです。

 

家賃を下げると赤字がもっと膨らみ手出しが増えます。しかし空室のままではもっと赤字です。困り果てたNさん、FPに相談することにしました。

赤字を前提とした投資はナンセンス

FPからは厳しい意見がありました。

 

「そもそも赤字を前提とした投資はナンセンスではないか」とのこと。「Nさんが結婚して子供ができれば、控除額が大きくなり所得税などは下がります。自宅用のマンションを買うと所得税等のさらなる減税もあります。そうなると不動産投資による節税効果はほとんどなくなるはずです」

 

また、老朽化に伴う家賃の減額や、大規模修繕とそのための管理会社の借入があれば資産価値が下がることもあり得るとのこと。資産価値が下がれば、Nさんが想定する出口戦略は崩壊します。

 

FPからは、1日でも早くマンションを売却することをお勧めされました。売却によって確実に損失を出しますが、傷が広がる前に損切りするべきと説得されました。オーバーローンとなった住宅ローンを完済させるためには預貯金を使うほかなく、損失額の累計は600万円となる計算です。

一棟アパート投資の魅力と安全性

不動産投資をするからには、節税ではなく明確なインカムゲインを目指すべきでしょう。複数の物件を所有して利回りを確保し、適切な時期に売却しキャピタルゲインを得るというサイクルで収益を積み上げていくほうが、投資としてわかりやすくなります。

 

そのためにはワンルームマンションではなく、一棟アパート投資の方が初心者にはお勧めです。Nさんを悩ませる空室リスクも、複数の部屋があれば分散することも可能です。不動産投資をするからには節税ではなく、利回り重視ということを意識しましょう。

 

〈執筆者〉

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。 住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。