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契約時に聞いていた入居者と、実際の入居者が異なる。単身で住むと聞いていたのに、いつのまにか二人暮らしをしている……転貸や単身者向けの物件に複数人の入居など、賃貸経営ではよくあるシーンに法的な問題はあるのでしょうか?

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転貸は法的に問題あり?なし?

転貸は、賃貸人、大家さんの承諾を得ていなければ、以下の民法の条文で明確に「できない」と定められています。

 

(賃借権の譲渡及び転貸の制限)

第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。

2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は契約の解除をすることができる。

 

条文で定められている通りですが、賃貸借というのは誰が借りたものを利用するかという信頼を基礎においているため、勝手に第三者に転貸することはできないという当然の決まりが定められています。

ただし、現実に起きる問題では、なかなか対処するのが難しいケースも多いです。具体的に情景を思い浮かべていただきたいのですが、あくまで貸している部屋のなかで日夜なにが行われているかを大家さんは把握できません。

そもそも転貸がなされているかどうかを把握しづらいもの。また、仮に異なる人が出入りしていたとしても、友達を招いていたとか、言い訳されるケースもあり得ます。そのため、転貸を把握して、問題のある転貸だというための証拠を集めるのが難しいといえます。

筆者の経験上は、実際に転貸が問題になり解除・明け渡しを求めるような事件自体が少ない印象を受けます。商業テナントで明らかに異なる事業がされているようなケースだと、法人登記や許認可等の登録の関係で発覚することもありますが、個人の住居ではなかなか転貸を突き止めるのは難しい印象です。防犯目的として廊下などに監視カメラを設置し、その映像から明らかに他人が居住しているような証拠を集めていくほかに方法はないと思います。

単身向けと募集をしていたのに…法的な問題点は?

「単身で住むと聞いていたのに、いつのまにか二人暮らしをしている」というケースを考えてみましょう。単身者限定という部分が契約書にも明記されているのであれば、契約違反だといえるでしょう。

もっとも、賃借人が誰であるかが重要な契約ではあるものの、解除するのは難しいといえます。

賃貸借契約は、居住権の保護という観点から、軽微な契約違反では解除を認めずに、重大な契約違反があって初めて解除できるという「信頼関係破壊の法理」という理屈が裁判例上形成されています。そのため、単身者限定の契約であるのに、同居人が増えていたとしても、転貸と異なり、本来的な賃借人が利用していますし、契約通りの賃料が払われている以上、解除し、立ち退き訴訟で勝訴するのは、よっぽどの例外事情がない限り難しいといえるでしょう。

トラブルは一切なし…目をつぶっていて問題はない?

転貸にしても、同居人の増加にしても、少なくとも契約解除して立退訴訟で勝てるかというと、証拠集めの問題や、信頼関係破壊の法理で守られているため、よっぽどの事情がないと難しいというのは前述のとおりです。では、なにもしなくてよいかというと少し話は変わってきます。

たとえば、転貸については、そもそも転貸している状況を把握するのが難しいですが、転貸の疑いがあるのに長年放置していると、「転貸を知りながら放置していたことにより、黙示に承諾していた」なんて反論されるケースがあり得ます。

「黙示の承諾」というのは法律用語ですが、違法な状態や是正されるべき問題を長期間放置していると、その状態を受け入れ、容認していたと認定されるケースがあるのです。そのため、具体的なケースごとに対応も変わってきますが、よっぽど転貸が疑わしい状況なのであれば、転貸は禁止されていますといった旨の注意喚起の手紙を入れておくなどの対応はしておいたほうがよいです。

次に、単身者限定のワンルームで同居人が増えているようなケースでも同様です。裁判で追い出すことはできずとも、契約違反であることを注意喚起しておく必要があります。そもそも単身者限定の物件では、単身者が住む前提で音の問題や、設備等が安全設計されていますので、近隣トラブルが発生するもとになります。そのため、こちらも不審に感じる事情があれば、警告の手紙は入れておくほうがよいでしょう。

ここまで説明してきたとおり、賃貸借契約は、軽微な違反があっても解除・立ち退き要求ができない特殊な契約です。もっとも、だからといって軽微な違反を放置しておくと、「大家さん側も違反状態を容認していた」なんて評価されてしまう可能性があります。そのため、解除までできずとも、軽微な違反があればその都度警告しておく必要があります。また、軽微な違反も長期間積み重なれば迷惑行為を理由に立ち退き請求できる可能性が高まるため、軽微な違反も地道に注意し記録しておくようにしましょう。

 

<執筆者>

山村 暢彦

弁護士法人 山村法律事務所

代表弁護士

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。 数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。 相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。 クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。 現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。