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アパート投資を進めるうえで、物件に特殊な条件がないか、事前に確認することが必要です。そのひとつが、物件が私道に接していないかどうか。もし、私道に接していたらどのようなトラブルが起きるのか、また対策は? 弁護士が解説します。

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私道と公道の違い

建物を建てるためには、道路と2メートル以上接していなければなりません。これを接道要件などといったりします。

建築基準法
(敷地等と道路との関係)
第四十三条建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。

道路といっても、色々な種類の道路があるのですが、そのうち「公道」とは、国や都道府県、市町村などの地方公共団体が所有・管理している道路のことで、「私道」とは、個人が所有管理している道路のことをいいます。

公道であれば、必要な手続きをとれば、建築に必要な掘削許可などは問題なくなります。他方、私道であれば、その私道の所有者個人から掘削許可など必要な承諾を得る必要があり、ここでトラブルが生じる余地があります。

私道トラブルの事例

私道トラブルの実例は非常に多いですが、代表的なものを幾つかご紹介します。

【ケース1】
●私道のオーナーが、私道を車で通行するな、工事車両を入れるなと通行を拒絶、妨害。また、掘削承諾も拒絶。

一番典型的なケースで、単純に私道オーナーから建築確認に必要な通行掘削承諾が取得できないというもので、単純なだけに一番厄介です。私道になっている場合には、裁判まで起こせば最終的に通行権等が認められるケースも多いのです。しかし、そもそもマンションや戸建てを建てようとしている場合に、裁判手続きのように何年もかかる手続きをやっていられないという実情があります。比較的迅速な手続きに、仮処分手続きという裁判手続きがあるのですが、それも確実にその手続きにて解決できるものではなく、解決の確実性実効性が乏しいものになります。

そのため、ケース1の場合には、裁判例など法的な理屈による反論+α、何が私道所有者側で嫌なのかをヒヤリングして、落としどころを見つけていくほかないのが現状です。

【ケース2】
●私道が共有になっており、10人程度の共有だが、そのうち2名の所在がわからない。

これはややイレギュラーなケースでしたが、弁護士が介入のうえ、所在がわからない2名の住民票等可能な限りの公的書類を追跡し、そのうえで、不在であることを確認できた上で、残った8名のみによる合意のみで建築許認可を取得できたという事案でした。

令和6年改正前の事案でしたので、共有物の「管理行為」に該当するとの判断の上、10名中8名の承諾があり、過半数の承諾があるので、管理行為としてOKという考え方によったものと思います。建築許認可は行政の判断によってくるため、その都度都度、解釈や回答が異なったりもします。

(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

今回は、所在が明らかな共有者で過半数を取れていましたが、仮に不在者が過半数であっても、現在は、令和5年の民法改正を踏まえて、以下の制度で裁判所を利用した解決が可能になっています。

(共有物の管理)
第二百五十二条
2 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

【ケース3】
●私道が戸建てを分譲した法人が所有していたが、その法人は現在解散しており実在しない。
●私道の所有者を調べてみたところ、相続放棄されており現在は国が所有している。

最後が、私道所有者が法的にも存在しないようなケースです。ただ、このパターンは厄介そうなイメージがあるかと思いますが、法人解散の場合には清算人を、相続放棄の場合には、相続財産清算人を、裁判所を通じて選任することによって、比較的見通し固く解決することができます。その他、国外に所有者が移動した形跡があり所在不明の場合には、不在者財産管理人などで対応可能です。

もし購入したアパートが私道に接していたら…とりうる対策

少なくとも考えるべきは、道路付けがどのような道路によって建築確認が取得できる土地なのか、道路付けの重要性を理解して購入すること。ベストはやはり公道との接道がある土地です。私道の場合には、複数共有者など複雑な所有者になっていないかどうか、また、その私道オーナーから通行承諾などを取得できているかどうか、など、購入前に確認して進めるほかないかと思います。

ただ、購入後に関係性が悪化することもありますし、売買によって所有者が変わることもありますし、完全な対策というのはないかなと思います。逆に、土地というのは、何でも無条件に建築できるものではなく、売却または建て替えの場合には、「境界確定のための確定測量」「建築確認のための通行、掘削承諾」など、隣地の状況によって、手間やコストが変わるものだという認識をもって購入するほかないでしょう。

 

<執筆者>

山村 暢彦

弁護士法人 山村法律事務所

代表弁護士

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。 数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。 相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。 クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。 現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。