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高給ながらもコツコツと資産形成を進めてきたサラリーマン。預貯金と株式の配当をあてにして、40代で早期リタイアを検討しているが、将来起こりうる問題は? また、そのような問題に対して取れる対策は? 長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
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FIREの4%ルール
FIREという言葉をご存じでしょうか。これは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取ったもので、経済的自立と早期退職を意味しています。
定年退職を待たずに若くして退職し、自由な生き方を手に入れると聞くと、「ビジネスで成功した人」や「大きな遺産を相続した人」を連想するかもしれません。しかし、昨今のFIREは決してそうではありません。
もし保有資産を年7%で増やすことができれば、インフレ率が3%だとしても4%が手元に残ることになります。その4%で生活することができれば、保有資産は減らず、早期退職が実現するという計算です。リタイア時に1億円の運用資産を持っていれば、年4%は年間400万円ということになります。400万円で生活すればFIRE実現となるのですが……残念ながら、この米国発の考え方は机上の空論ともいえます。
ライフプランニングを緻密に計算していくと、4%ルールは極めて非現実的だとわかるはずです。人生はご飯を食べていくだけではありません。住宅の修繕費、子どもの教育費、親の介護、自分や家族の大病や障害、税制の改正、家族の死、災害、社会変動、大金の出費を余儀なくされるトラブルなどがつきものです。そして、そもそも毎年7%で一生もわたり安定して運用できると信じられる人は多くないはずです。
FIREを目指すある会社員の事情についてみていきましょう。
年収3,820万円、資産額1億1,000万円、エリート会社員のFIRE事情とは
[事例]
夫Yさん:40歳、年収3,820万円、山形県生まれ
妻Kさん、38歳、専業主婦、東京都生まれ
子ども:2人
現預金:2,000万円
運用資産:9,000万円
現在の家賃:25万円
夫のYさんは東京都内の金融機関で働く会社員。40歳の今、年収はインセンティブ給を含め3,820万円と高額です。27歳のときに転職をし、順調に年収を伸ばしてきました。年収は高額ではあるものの、生活は非常に質素です。インセンティブ給が年収の多くを占めるため、いつ年収が下がるのかわかりません。また、勤務先は外資であるため、突然の解雇もありえるからです。
職場に近い都心に住まいを構えているため家賃は月25万円と少々値が張りますが、自動車も持たず、特に大きな贅沢をするわけでもありません。
夫Yさんはここ数年、社内の激しい競争に疲れ果てています。転職を考えることもありますが、今の資産でFIREできないかと考えるようになりました。今の資産額は1億1,000万円。普通預金が2,000万円、金融投資をしている金額が9,000万円という構成です。
これはFIREするのに十分な金額と言えるのか、FPに相談してみることにしました。
FPの回答は厳しいものに
FPに相談したところ、答えは厳しいものでした。
確かに生活サイズは小さく、資産額も多いのですが、都心で今の生活を続けていると72歳で資産がゼロになってしまいます。二人の子どもがまだ小さく、今後、私立への進学をすることで資産は大きく減ります。また、Yさんは山形県の出身で、両親は小さな会社を営んでいました。しかし10年前に会社は倒産。貯蓄はゼロで今後、両親の生活を支える必要も出てきます。もしFIREをするとしたら、地方に引っ越し家賃を12万円以下にし、生活費も毎月5万円ほど下げる必要があるでしょう。
「地方に引っ越しということは子どもの転校もありえますね……」と夫Yさん。
「そうです、そして私立の進学ではなく、公立が前提になります。山形の実家で両親と同居するとなおいいでしょう」とFP。
「妻は東京生まれで山形では暮らせないと思います。上の子どもは少し不登校気味で転校はとてもリスキーですね……」と夫Yさん。
もしくは、金融投資の利回りが非常に高いまま一生推移すると信じられるかどうかです。
「それも無理ですね。怖すぎます」
やはり、一億円を超える資産があってもFIREは机上の空論でしかないようです。
FPからの提案
そこでFPからこんなアドバイスがありました。
「Yさんは今のお仕事を辞め自由を得たいというお気持ちが強いのですが、現状ではFIREは危険すぎます。しかし、ひとつ方法があります。それは退職をしたあとに小規模の不動産投資をする方法です」
「え……アパート経営とかですか? 抵抗あるなあ」とYさんは怪訝な顔になります。
FPは今後の家計の流れを見せて説明します。アパート経営は大きな借り入れが必要になりますが、手残りで毎月35万円の家賃収入が25年続くだけで、FIRE後の家計収支が激変します。年間所得は420万円です。今の住まいから引っ越すことなく、金融資産の運用を年2%と低く見積もっても、一生資金が尽きることはありません。
「72歳時の資産額は1億円を超えたままです。65歳時に運用物件を売却したキャピタルゲインは考慮せずにこの金額です」とFP。
「借金返済をしているのになぜなのでしょうか……」とYさんが驚きます。
FIREを検討している人の多くが錯覚するのですが、これは難しい話ではありません。FIRE後にも金融投資以外の収入が多少あるだけで家計はまったく違うのです。高い利回りでの運用でも同じ結果となりますが、今後も安定して株価が伸び続けると妄信し、そこに家族の人生をかけるほどの勇気はないでしょう。また転職によって420万円の年収を得ても同じ計算になりますが、そもそもFIREの意味をなさなくなります。
FIREするために、退職後の運用にはリスクヘッジが重要です。金融投資だけに依存し株価に一喜一憂するのではなく、不動産投資というスモールビジネスも持つだけで家計と心の安定に繋がります。
もちろん不動産投資もリスクがありますが、金融投資とはリスクの種類とタイミングが異なります。株価の変動が即座に家賃の変動に繋がるわけではありません。異なるリスクの資産運用を複数取りそろえることで、FIRE後の生活を安定させることが可能になります。
<執筆者>
長岡 理知
長岡FP事務所
代表
2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。 住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。