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入居時のトラブルで多いのは、やはり契約上のトラブル。それは入居が済んでいない前段階でも起きます。入居予定者からキャンセルしたいと申入れがあったら、大家としてどう対応すべきか? 弁護士が解説します。
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たびたび生じる入居キャンセル事例
賃貸物件の案内時から、やっぱりやめたいというキャンセル事例は、たびたび生じるトラブル事例です。やっぱり他の部屋にしたいという理由のほか、仕事上の状況の変化でその部屋に入居する理由がなくなったとか、あとからその物件に関して嫌な情報が見つかったなど、キャンセルする理由にもいろいろあるでしょう。
賃貸のキャンセルトラブルは、申し込み~契約~入居といったタイミングの違いと、キャンセルの理由によって、結論がかわってきますので、場面をわけてお話ししていきたいと思います。
段階別(申込書提出/入居審査/賃借契約締結)に考えると…
賃貸の入居を決める際には、①部屋の内見 ②申し込み ③保証会社等の審査 ④契約手続きという流れが一般的です。キャンセル理由にかかわらず、基本的に④契約手続きよりも前であれば、ペナルティなしで入居者側の都合でキャンセルできます。
④契約手続き段階からは、契約によって入居者側にも法的責任が生じますが、契約までは基本的に法的責任は発生しないというのが基本的な説明です。②申し込みというのは、まだ「入居したいとの希望」を出しているだけなので、キャンセルしてもOKというのが法の取り扱い。③保証会社等の審査に回しているのも、まだ契約の準備段階という位置づけで、やはり④契約手続き後から法的責任が発生するというのが妥当でしょう。
もっとも、この記事を閲覧された人も、「契約まではキャンセルOK」と安易に考えるのはやめたほうがいいでしょう。法律はどこかの段階で責任のあるなしを決めなければならないので、どうしても硬直的な面ももちます。しかし、キャンセルするとなると、内見に案内した人、保証会社の審査部門の人、入居希望を判断した大家など、関係者多数の時間を犠牲にしているため、法的責任の有無だけではなく、関係者へも配慮した行動が必要です。
実務的に大きなポイントは入居完了したかどうか
裁判例うんぬんというよりも実務的な考え方になりますが、入居のための引っ越しを終えたかどうかも大きなポイントになると考えられます。
賃貸は契約書の手続きに加えて、入居者の引越し、法的には「(大家側から入居者への)建物の引渡し」がなされたかが、賃貸がスタートしたかどうかの判断ポイントになってくるからです。入居者の引越し=建物の引渡しを終えていれば、法律的に大家側でなすべきことをなしたと評価できますので、あとは物件に問題があるという法的主張は入居者側が主張していく必要があります。実際上、引っ越し済みで入居しているため、何か文句があっても、「部屋を利用している」のは間違いありませんから、賃料も契約書どおりに大家側から請求されるのが原則となります。
一方、契約後であっても、入居前の段階では、裁判にまで発展した場合、「入居が完了しておらず、実際に部屋も利用していない」となると、契約後であってもなかなか難しい状況判断になってきます。
少々抽象的な説明になってしまったかもしれませんが、ⅰ)契約締結時点から法的責任は生じるが、ⅱ)契約後~入居時点まではやや曖昧な状況が続き、ⅲ)引越し、入居時点からは、完全に入居者側の責任が生じる可能性が高い、といった場面整理ができます。法的責任は契約時点から生じますが、部屋の入居時点から建物利用や原状回復、クリーニング費用など、実損が生じるためです。
このあたりは、杓子定規に裁判例で決まるものでもなく、また、係争金額も大きくなりづらいので、入居前かあとかという状況を確認しながら、借主、貸主、仲介会社で穏便な着地点を見つけることのほうが多いのではないかと思います。
手付け金や申込金など……返金すべき?
部屋を押さえる対価として、一定金額を「申込金」として預けることがたびたびあるかと思います。ただ、あくまでこの場合は、「申し込み」に伴う「預り金」という扱いでしかないため、契約前にキャンセルしても、基本的に全額返還してもらえます。
契約後の諸費用を支払った後のキャンセルとなると、キャンセル理由とその契約内容次第のため、なかなか一義的に回答しづらいですが、前述したように引越しを終えていれば、再度ハウスクリーニング費用なども発生するため、少なくとも一定金額が差し引かれても致し方ないでしょう。
諸費用支払い後、入居前の段階が、契約内容や費用名目、解約に至る理由などにより、千差万別の結論になり得ますが、いずれにせよ、仲介会社等を通じて、穏当な落としどころを見つけていくほかないと考えられます。
今回、かなり実務的な視点から、賃貸のキャンセルトラブルについてお話ししましたが、法的な責任が問われづらいからと安易なキャンセルは行わないように注意したいものです。それでもどうしてもキャンセルしたい場合には、仲介会社などを通じてキャンセルに至る理由を誠実に説明して、関係者に対する謝罪の気持ちをしっかりともって説明するようにしましょう。今回の問題のように、係争金額が比較的低く、どちらにも転びうる問題では、真摯に謝罪していればもめなかったのに、態度や言い方などが悪いから係争化してしまう、という事態が非常に多いため、入居者・大家側いずれも注意いただきたいところだと思います。
<執筆者>
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。 数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。 相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。 クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。 現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。